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ようこそクスクリ小説にお越しくださいました。ありがとうございます。

8年間ヤフーブログをやってきました。私は大学生の頃から趣味としての精神的支柱がないと生きて行けない人間です。

安月給なのに、「ミス・イコール・死」の覚悟で数十年仕事を続けてきた私は、物語の登場人物たちに励まされて鬱一歩手前で何とか踏み止まっています。

記事が半端ない量に達したときふと不安になったんです。

ヤフーが潰れることはないとは思うんですが、何らかの理由で記事が消失してしまったら今の私は生きる支えを失ってしまいます。せめて書籍化して残しておかねばとブログ設定画面を覗いたら製本サービスが無くなってしまってました。

何とかならないかとネットを探索し捲りましたが、もう手段は記事を別のブログに移すしかありませんでした。せめて小説だけでも移してしまおうと選択したのがFC2ブログです。

やってみてびっくり、ヤフー以外のブログの自由度がここまで進化・複雑化してたなんて私はカルチャーショックを受けてしまいました。トップページ・テンプレートの設定さえままなりません。

ヤフーには5千字の字数制限があるため、ともすればページが歪になってしまう傾向があります。でも、FC2ブログはその心配はないようです。移すからには改稿・推敲し直し、より素晴らしい文章に近づけて行くつもりです。

ヤフーの中に収めている小説は「二十歳の紀子」「凶悪志願」「夢界の創造主」「ちんばの総長」 「倭王・武」「俺とやっくり」「オッス空手部」の7作品ですが、後半の3作はまだほとんど書いておりません。先に前半4作をFC2に移すことが急務です。

ブログ画面右端真ん中の「全ての記事を表示する」をクリックしていただければ、日付別に単純に整然と記事が並んでおりますので閲覧、どうぞ宜しくお願いします。

物語はフィクションです。登場する個人・団体名はすべて架空のものです。どうぞご了承下さい。

ランキングは初参加です。小説を残すためのPDF化・製本化が目的だったので軽い気持ちの参加だったんですが、ランキングの上下が私のモチベーションにこんなにも影響するとは思ってもみなかったです。

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癌再発

昨日の夜、携帯に親父から電話がきた。悪い予感がした。この前、佐世保からわざわざ福岡の和白までPET診断に行った結果がそろそろ出る頃だったから。親父は咽びながら懸命に言葉を搾り出しているようだった。
「また肺にがんができとるって医者が言うんよ」
「またってもう2回も手術して肺な半分しか残ってねぇんにこれ以上、医者はどげん治療する言よんや」
「もう手術出来んけん抗がん剤治療するって言うとたい。また、髪の毛が抜けてしまう」
親父は3年前、悪性リンパ腫を患い、抗がん剤治療で快復した。
「何で俺だけがこげん目に合わないかんかて泣くごとあるばい」
俺は一時言葉に詰まったが、
「おっさん、ものは考え様や。この前言よったやねぇか、おっさんの友達はもうみんな死んでしもうたって」
「あぁそうや。だぁれも残っとらん」
「考えちみればまだ生き残っとるだけおっさんは幸せ者や!」
「今から楽しかこと俺がいっばいしちゃるけん」
こんどこそ年貢の納めどきか…!
抗がん剤治療で治るわけねぇ。20日に哲と佐世保総合病院行ったら余命言い渡されるやろ。
俺に今、親父のために何ができるんじゃ。
今すぐ、家族3人で鹿町に飛んで帰って親父を白々しく慰めてやることか?
親父が一番喜ぶ事……
俺ら男3人兄弟が嫁孫も交えて仲良く語らう姿を見せる事、これが親父が最も喜ぶことやねぇんか!
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西海橋

「労金にしゅうかの…ん~…ばって今まで下ろさんで我慢してきたけの」
 親父は思案する。
「おっさん、親和銀行にしときない、労金はそのままにしとった方が良か」
「そうやの。そうしょう」

 親父は康太を見た。
「そんならこの金は全部康太にやる。おかさんの面倒よう見てくれるけん康太が一番かわいか」と、にこっと笑う。
「おっさん、ちゃんば甘やかしたらいかん」
 俺が冗談ぽく釘を刺すと、

 康太が、
「俺もいらん。自分の力で生きて行く」
「そうか、そんならこの車を康太にやる、どうせ乗れても2・3年やけんな」
「爺ちゃん、そんならありがたく貰う」
 親父はそんなちゃんに頼もしそうに眼を細める。

「このままおっさんの運転で佐世保総合病院まで行ってみゅうか」と提案する俺に、
「何の事はなか。何処まででも大丈夫たい。どんとこいたい」
 親父は自信満々だ。

 ――本家の叔母が言う、後ろが踊りよる?どげなことや――
 俺は親父の運転を注視した。腕が震えている。車が右に左に揺れる。時々中央線をタイヤが踏む。対向車が来ると慌ててハンドルを切り込む。

 危なっかしい運転だったが、何とか佐世保総合病院には到着した。
 俺は課題を出した。
「おっさん、駐車場に入って枠に停めてみゅうや」
「何っちゃことないさ」と親父。
「どうや」
「おっさん、こいじゃ隣の車に悪ぃばい」
 
 ギャランは枠には収まっているが大きく斜めになっていた。
 数度入れ直したがあんまり変わらない。
「お父さん、また曲がっとる」と見兼ねた嫁がダメ出しする。

 しまった。 始まった。嫁はしつこい。同じ事を何度も繰り返すこの性癖には俺も息子も辟易している。この辺で親父に助け船出してやらないと、親父の気が滅入ってしまい、車買うん止めたとか言い出したら大変だ。

「おっさん、こいだけ運転できたら十分じゃ。軽になったら入れ易うなるけんよ」
 親父は嬉しそうに、
「そやろ、そやろ」と顔を綻ばす。
「そんなら新車ば楽しみにしときない。後は昼飯でも食って帰るか」

 話は戻るが、今日の帰郷はあくまでも新車の納車と言う仕事だ。昨日の夜小倉を出たが、親父が7時までに来いと言うのでと店長に断って早めに仕事を上がらせて貰い、夕方5時に家を出て佐世保に向かった。鳥栖までの高速代は会社に経費で認めて貰った。鳥栖からは一般道に下りた。 多久の辺りでテレビの龍馬伝に気を取られ慣れた道を迷ってしまった俺は、嫁にダメ出しされ運転を代わらせられた。

 これ幸と後席で睡眠だ。起きたときには鹿町に着いていた。これも軽にしたお陰だ。嫁が積極的に運転するようになった。俺にとっては楽なことこの上ない。

 納車を俺が4月6日に拘った理由は息子のことと花見だ。家に篭りがちの親父とお袋を西海橋の桜を見に連れて行ってやりたかった。1台の車で5人が動けるのは今日が最後だ。ギャランは13年の役目を終えて安らかな眠りに入る。

 後何年、親孝行ができるのか…?
 一緒に住んでやれない俺ら家族はできる限り帰郷して高齢の両親が楽しめることをやってやりたいと思っている。
  今日は親父の検診日だったようだ。

 朝早う出るのでお前達はゆっくり寝とっていいぞと気遣う親父に、
「気にせんでよか、俺らは休みのときでん朝7時には起きとるんやけん。ちょうどよか、俺が総合病院まで連れて行ってやるわ。そん後西海橋に花見に行くか」
 西九州道は今年佐世保市役所の手前まで延びて佐世保中央インターが出来た。西海橋は久しぶりだ。

 道もずいぶん変わっている。俺は無難に国道35号線から行くことにした。
 トランクには親父が御座を準備していた。西海橋は西彼杵に行く途中にある。俺は知らなかったが、西海市に変わっていた。

 道路標識通りに車を走らせた。前に行ったとき沿道は淋しいものでコンビニは1軒もなかったと記憶していた。

 見えたら即入るつもりでファミマに飛び込んだ。いなり寿司とか焼きそばとか買い込んだが、何のことはない。それからも沿道に数軒のコンビニを認めた。
 紙皿を買うためにローソンに入った嫁が車に乗り込んでちくっと俺を皮肉る。
「何も急いで買う必要なかったのに。ここの方がいっばいあったよ」
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42話 デモンストレーション

 構成員の失望に似た溜息に、苛つく美代子のマイクパフォーマンスが炸裂する。
「あんたらのためにもう一度断っておくけど総長を見た目で判断したら酷い目に遭うかんね」
「総長はあんたらが束になって掛かっても敵わないこと、骨の髄まで分からせてあげるからようく見てるが良いよ」
 美代子が後ろを振り返って、「じゃぁ準備宜しくね」

 族どもがざわつきだした。
「いったい何する気なん?」

 どこから持ち出してきたのか、工事現場で使う畳一畳分はある厚手の合板を直角に立てて幹部2人が腰を落として支える。中央には黒く的が描かれている。

 坪口と浩紀が的から数メートル離れて立った。
「ほんじゃぁ俺から行かして貰うわ」と浩紀。
 まず左手に握られたのはナイフ一本。

「特攻隊長の投げナイフや!」

 狙いを定めた浩紀は上手から思いっきり腕を振り抜いた。
 ドスっという鈍い音とともにナイフは的のど真中に突き刺さった。

 おう!とドヨメキが上がる。
 ドヤ顔の浩紀。

「浩、凄ぇやないか。ほんじゃ今度は俺の番や」と坪口。
 ゴツい右腕から力任せに放られたナイフは浩紀のナイフより明らかに力強く、これも的のど真中にズドンと並んで突き刺さった。

 一層高いドヨメキが沸き上がった。
 更にドヤ顔の坪口に、チッと舌打ちした浩紀は指にナイフを2本挟んだ。

「坪、まぁ見とれや」とニヤッと不敵に笑った浩紀が放ったナイフは的の真ん中を挟んで的内にキレイに横一列に突き刺さる。相手が人間なら胴体を外していない。

 背筋も凍るパフォーマンスに構成員は唖然と口を開けて、放心状態だ。
「キチガイのごと喧嘩が強い上に投げナイフの腕も超一流って…あの2人に敵う奴なんてほんとに居るんかよぉ」

「あの2人、バケモンですね」と感嘆する山本に、「あん2人は所詮総長のダシやないんか」と権藤。
「まさか!」

「あの凄ぇ投げナイフがダシですかい?!」
「まぁ見とれや。滅多に見れねぇ見世物の筈や」
「そいにしても暑ぃな。メットの中ぁ蒸し風呂や。汗が目に入って見え難ぃぜよ」
 権藤はフルフェイスのヘルメットのカウルを上げてタオルを捻じ込み汗を拭く。

 美代子、坪口、浩紀が康太を囲んだ。
「康ちゃんほんとに大丈夫なん。ハエとは違うんだよ。もししくじったら冗談ではすまないよ」
 美代子は生で見る投げナイフの迫力にさすがに怖じ気付く。

 思いは坪口も浩紀も美代子と同じだ。康太のヌンチャクの技が神掛かっていることは信じて疑わないものの、もしもということもある。
「このデモは奴らに総長の力ば認めさせるだけのものや。本気でやるんも馬鹿らしいで。康太が払い易いごと投げたるけんよ」と坪口。
 美代子も、「それでも康ちゃんのヌンチャク初めて見る人間は物凄くビックリする筈だよ」
 浩紀も、「俺もそん方が良ぇと思うぜ。もし康太に万が一んことがあったら俺ぁ真知姉に顔向け出来ねぇよ」

「気遣い手心無用や。ほいに俺から見たら2人のなまくらナイフにゃハエが止まるぜよ」
 途端、ムッとする2人。
「俺を殺すつもりで本気で投げたナイフば叩き落としてこそ、俺は坪口と浩の上に立てる人間になれるんや」

 2人は呆れたという仕草で、「頭ん良い康太の考えることは俺らにはわからん」
「分かった。どうなっても知らんぜよ」と浩紀。
「あぁ望むところや」

 2人が所定の位置に戻ったのを確認して、康太はゆっくりと工事用合板の前に立った。的は康太の胸の位置だ。

「2人のナイフの的になるんかよ」
「あの距離からのナイフてろかわせるんかよ」

「兄貴ぃ」
「あぁ」
「何する気や。あの距離からのナイフば躱すだけ!?」
 権藤は腑に落ちない。

「おじさん」と佐和子が青ざめる。
「まさか、あの2人康ちゃん目掛けてナイフ投げるつもり?」
「おじさん止めなくていいの?」
「今ちゃんとここに居るのに見てるだけで、もし康ちゃんに何かあったら…」
「私真知に会わせる顔ないよ」
 親衛隊に守られた恰好の佐和子だが、勇気を振り絞って危ない族が屯する中を前に出て行こうと一歩踏み出した。

 その手を達己が掴んで、「お佐和、心配無ぇ」
「でも…」
「康太は馬鹿じゃ無ぇ。勝算の無ぇこつする訳無ぇ」

「じゃぁ康ちゃん」と美代子が手提げ袋の中から棒を2本取り出した。
「ほんとに大丈夫?」
「ヌンチャク持った俺に不可能なこつてろあるかよ」
「わかったぁ」
 康太はそれを左右の手で軽く持つ。

「おい…総長手に何か握ったぞ」
「ヌンチャクや!」
「ダブルヌンチャクや!」
 前列でのドヨメキが瞬時に後方へと伝播して行く。

「俺、聞いたことあるぞ。俺らの影の総長はヌンチャクの達人やとよ」

「兄貴ぃ!」
「あぁ」
「ヌンチャクかぁ」
 権藤はしたり顔で、
「顔は隠しちゃぁいるが俺の想像通りなら俺は会ったことあるぞ」
「えっ兄貴、あの総長に会ったことあるんですかい?」と驚きを隠せない山本。

「達己さんの息子や!」
「あの高良山の化け物ランサーの!」

「ヤマ、去年の夏やったか、俺は俊兄貴のパーティーに招待されたんや。そんとき、達己さんと息子の康太君ば紹介された。確か中学3年やったかいな」
「そんとき余興に康太君がヌンチャク披露してくれたんじゃ」
「とにかく凄かった。ヌンチャクの回転で土煙が上がったけんな。肉眼じゃ見えんのや。ブルース・リーのヤラセのヌンチャクてろ及びもつかんやったわ」

「やっと府に落ちたわ」
「何がですか?」と山本。
「TBRの総長があの狂犬2人ば束ねきった訳よ」
「その辺のただのバカガキの集まりたぁ全く毛色が違っとった訳もな。TBRの総長は頭も切れるぞ」

「おっと待てよ」
「どうかしたんですか?」と山本。
「思い出したわ」
「あの狂犬2人、数ヶ月前にラッキーでサマ働きやがったで事務所でボコボコにヤキ入れてやったとき抜かしやかったわ。友達の免許合格祝うためにサマやったとな。で、そいつの下に付いてデカイことやるとな」
「兄貴、あの2人とも面識あったんですか」
山本が意外という顔で権藤を見る。
「あぁ」
「そいつの名前ば教えんやったら殺すぞっち脅しても意地でも口割らんやったわ。そいが康太君やったっちゅう訳やな」

 康太は身構えない。一応、浩紀の方は見てるようだが、両手はだらんと下ろしたままだ。

 去年の焼き肉パーティーのとき、康太の神業ヌンチャクを網膜に焼き付けた浩紀としては今の構えが無性に気になる。映画のブルース・リーは自らの技を誇示するが如く、これでもかというくらいに忙しくヌンチャクを動かしていた。

 浩紀はつい、康太と呼び掛けそうになって、慌てて口をつぐむ。
「総長、準備はいいですかい」
 康太は美代子にOKのサインを出す。
「総長はいつでも良いって言ってるよ」

『康太、もうどうなっても知んねぇぞ』

「総長全く避ける気なさそうだぜ」
「まさかあのチンバ総長、胸に鉄板でも仕込んどって、隊長のナイフ跳ね返して、はい終わり、のオチじゃないやろうな」
「まさかよ!」

 南無三!
 浩紀の放ったナイフはバイクのヘッドライトの光を鈍く反射させながら康太の胸目掛けて一直線。

 ヌンチャクが届く範囲前方180度が康太の制空圏。
 飛んできたナイフはその制空圏に到達するや否やパキッという音とともに無惨に地面に落ちた。

 一瞬何が起こったかわからず、場がシーンと静まりかえる。下段に屯する手下たちも上段に陣取る幹部連中も。

 浩紀の話から康太のヌンチャクが物凄いとは頭では分かっていたものの、まさかこれ程のものとは、と感服する坪口。
 康太を頭に頂いておけばTBRは怖いもの無しだ。瞬く間に福岡都市圏も席巻してしまうことができそうだ。

 自分1人だけが康太の技の凄さを分かっていたが如く、拡声器を手にした美代子は得意気に、「みんなビックリして声もでないみたいね」

 地面に落ちた柄だけのナイフを拾い上げて掲げてみせる。
「はい特攻隊長の自慢の投げナイフも総長に掛かったらはい、この通り」

 下段の一角で起こったウォーという歓声が伝播して増幅されて地鳴りの如く公園中を覆う。

「また、序の口だよ」と美代子が煽る。
「じゃぁ2人の隊長さん、同時に投げて良いよ」

「けっ三浦んやつ、康太が浩のナイフ簡単に叩き落としたんで調子づきやがったぜ」
 坪口は満更でも無さそうに口の端を歪める。

 浩紀もほっと胸を撫で下ろしたように、
「やっぱ康太のヌンチャクは凄ぇわ!」
「俺ごときが心配するちゃ百年早いわ」

「坪、俺らが総長の指図じゃ。殺すつもりで思いっきり投げたろうやないか」と美代子の拡声器を手に持つと、次の神業への期待にじっと康太一点に視線を集中させている手下どもに向かって、

「お前ら、総長は俺と坪の何倍も上行っとるお方じゃ。そんな総長ば頭に頂けるこつば光栄に思えや」
「なら、眼玉ひん剥いてようみとけや」

 浩紀の演出に応えてか、今度は正面に2人を見据えて身構えるが如く、康太は両手を若干前に出した。

 場はシンと静まり返り上段のこれから起こるであろう光景を固唾を飲んで見守る。
 日付は既に変わっている。
 月明かりで明るい雲の切れ間から満月が顔を覗かせ、池にその丸い姿が写し出される。
 そよぐ風に水面に微かに波が立つ。

「総長行くぞ」の掛け声とともに、2人の鋭いナイフが康太目掛けて投げられた。凄技を目の当たりにした2人からは不安気遣い手心という言葉は消え去っている。まさに殺気を塗り込めた刃だ。

 一投目を投げ終わるや、浩紀は素早く特攻服に左手を差し入れると指の間に2本のナイフを挟んだ腕を鋭く振り抜いた。

 ヌンチャクを持つ両手が確かに動いた。だが、その神速に肉眼が追い付かない。4本のナイフは投じられた順に柄の部分を残して虚しく康太の足許に転がった。

 浩紀はお手上げとばかりに両手を広げ、「総長に掛かったらナイフてろハエ以下やな」
 浩紀の諦めを聞いた坪口も、「確かにな。ナイフは真っ直ぐ飛んでくるけな。予測がつかんだけハエ落とす方が総長にゃよっぽど難しいんやないか」

「総長!」
「総長!」
「総長!」
 自然発生的に族どもが脚を踏み鳴らし始めた。

 美代子は満足そうに、「総長の物凄さが分かったみたいだね」
「じゃぁどっちかが締めてよ」

「分かった」と坪口が一方踏み出した。出遅れた浩紀が、「坪、特攻隊長の方が格上やけんど譲ったるわ」
「浩、恩にきるわ」

 拡声器を手にした坪口が大音声で叫んだ。
「お前ら、祭りはまだまだこれからや」
「今日は総長の温情で高良山の鳥居に到達した上位5人ば格上したるとのお言葉や。ルートや手段は問わねぇ」

「俺らはTBRや。柔な走りしか出来ない奴に用は無ぇ」
「てめぇの前走っとる奴、潰してでも前に出れや」
「俺や浩、勿論総長でもや」
「死ぬ気で走れや」

 途端、歓声がこだました。
 ウオォォォ!
 やったるぞ!
 気合いの入った族どもが右手を突き上げる。

「暑ぃ!」
「こんなもん被っちゃられんわ」
権藤はフルフェイスのヘルメットを脱ぎ捨てた。
山本が慌てて、「兄貴、ヤバいっす。目立っちまいやす」
「総長が誰か分かっちまったら正体隠す意味なんて無ぇわ」

一緒に久留米から流してきた族の1人が目敏く気付く。
「お前、偉く老けてんじゃん。もしかしてオヤジか?」
「俺は老け顔なんんだよ」
別の1人が、「あれっお前、顔に火傷の跡なんて無ぇじゃんかよぉ」

支部の仲間が権藤と山本をぐるっと取り巻く。
「お前ら見ねぇ顔やん?」
「お前、ホントに構成員か?」
「愚連隊のスパイじゃ無ぇだろうな?」

一触即発の危機にも権藤は落ち着き払って、
「目出度ぇ総長んお披露目ん日に小せぇこつ気にすんなや」
「そいに、さっき分かったんやが総長は俺のこと知っとるそ。聞いてみぃや」
「ばって、俺んこつスパイち疑ったっち知ったらお前らただじゃすまんやろうな」と権藤は口の端を歪めて不敵に笑う。

途端、困惑の表情を浮かべる構成員たち。
「おいどうするよ?」
「触らぬ神に祟りなしや。ほたっとこうや」
「おう、その方が賢明や。お前らも一端の族なら走りで根性見せたれや」
「言われんでもそんくらい分かっとるわ」

連中が2人に興味を失うと、
「ヤマ、もう狂走連合は終わりや。肩入れも止めじゃ」
「兄貴、どうなさるんで?」
「あの狂犬2人に近づく度胸あるかや?」
「兄貴のご命令とあれば俺にはうんもすんもないです」

「奴らに活動資金提供申し出れや」
「総長は無理でもあの2人が入ってくれりゃ組も安泰なんやがな」
「兄貴、本気なんですかい?」
「あぁ本気や。オヤジもいつかは引退んときがくる。そんとき、俺の下に奴らが居れば簡単に組掌握できるわ」

「俺では役不足で…?」とボソッと訊ねる山本はいかにも申し訳無さそうだ。
「そうまでは言わんが…」
「まぁ実現するかどうかは分からんがそんときゃお前ぇも奴らの上に立てる極道になっとれや」
山本は決意新たに、「オス!兄貴」

「ねぇおじさん、あの子本当に康ちゃんなの?」
達己は佐和子の反応を面白がっているのか、他人事みたいに、「ありゃ正真正銘ちゃんやや」と顎を擦りながら感心している節さえ見受けられる。

「何?お佐和はあの総長がちゃんじゃ無いこと願っとんのか?」
「うん」
「男の子と女の子の感性の違いかもしれないけど」
「ここにいるたくさんの危ない子たちのリーダーっていうことは必然的に今から危ない目に遭うかもしれないってことだよね」

普段の康太を知っている佐和子には危ない族数百人を前に堂々と威厳たっぷりのあの子が康太本人だなんてどうしても信じられない。
顔を覆ったスカーフを取ったら別人だったりして、とか考えてもみる。
それにあの人間業とは思えないパフォーマンス、真知子が知ったらと思うとぞっとする。
腰抜かして寝込んでしまうかもしれない。



「総長どうぞ」と幹部がパケモンDT400を康太の前に動かしてきた。
「おう!」と応える康太。





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2009年ゴールデンウイーク始末記Ⅲ

 実は、ゴールデンウイーク前に、退院して初めての定期検診に行って肺に影があると医者に言われたそうだ。親父は肺癌を覚悟し、兄弟3人に電話してきた。

 三男は電話が通じず、次男は絶句して何も慰めの言葉を掛けられなかったそうだ。俺にも掛かってきた。夕方6時くらいだったか、まだ会社に居た。俺は嫌な予感とともに電話を取った。

「どげんしたな。また具合が悪うなったんな」
「実は病院で肺に影があるって言われたんや」
「肺に影っていうたら肺癌しかないやないか」
「ああ、そうや」
「何、去年は悪性リンパ腫で今年は脳梗塞、そして今度は肺癌や!」
「俺もついとらん。今度こそあの世から迎えが来とるばい」
「俺に慰めの言葉はねぇ。どうしようもねぇ」
「分かっとる。もう覚悟は決めとる」

 俺は同僚に聞かれないようにショールームの端に移動した。
「ばって物は考えようや。親父は79歳まで生きたやないか。俺はその年まで生きれるかどうか分からん。糖尿で苦労しとるしな。案外早うあの世で親父と再会できるかもしれんぜ」と俺は戯言をほざいた。

 親父は自嘲気味に笑って、
「確かに長う生きたかもしれんな。同級生のほとんどはもう死んでしもうとるけんな」
「ばってまだ肺癌っち決まった訳じゃなかろうもん」
「まぁまだ精密検査が残っとるばって」
「そげん落胆せんでよかって、連休にゃ鹿町帰ってぐちたっぷり効いてやるけん」

 夜8時頃、三男が実家にやってきた。俺としては丁重に出迎えた。
「よう来たな、まぁ座れや」

 三男はこの前と同じように庭に面したサッシ側に座り俺が対面に座った。親父は三男の左隣に陣取った。もう土産の飛騨ソバが次男用の1個しか残ってなかったので嫁さんが予備用に選んでいた橡餅を渡した。

「親父が色々話してぇことがあるごたるけん聞いてやれや」
 親父は今の思いを懸命に三男にぶつけていた。俺は話を2人に任せて適当に口を挟んだりして相槌を打った。

 結局、2時間くらいの滞在だったが俺が居て三男が居て兄弟が実家に揃って居たという事実が親父にはよほど嬉しかったようだ。こんなことはもう彼此れ10数年ぶりになるだろうから。

 実を言うと俺と三男が親父の前で揃って居たのはついこの前にもあった。親父が倒れて3日目だったか、佐世保総合病院で偶然出会って一緒に親父を見舞った。親父を2人で懸命に元気づけた。後で親父に聞いて分かったのだが、本人には全く記憶がなかったそうだ。俺等の前でいつも気丈な親父が泣いたりしておかしいなとは思っていたが。

 三男が暇乞いをして立ちあがったとき、親父は満足そうに、
「今日は思いのたけ全部話したけんすっきりしたぞ」と顔を綻ばせた。

 親父とお袋も三男を見送りに勝手口から外に出たが、俺は二人きりで話したかったので、外は冷えるからと早々に両親を家の中に誘った。三男のエルグランドは玄関前のスペースに停まっていた。

「ところでよ、親父が見舞いにきた幸夫叔父貴達ば追い返したこと知っとるか?」と俺は話を切り出した。
「あぁ知っとる。病院に見舞ったとき親父自身から聞いた。まさかとは思うとったばってん…」
 三男の言葉が幸夫叔父貴の辛さを推し量って途切れた。

「おめぇ佐世保市役所に入るとき相当世話になったんやないんか」
「うん、公私とも相当世話になった」
「宝泉寺温泉の別荘にも夫婦で何度も招待してもろうた」

「そいと、幸太郎が嘆きよったぞ。合併で役職が下がるってな。ほんとか?」
「あぁ2階級下がってしまう。そいでも30代の若い職員は本庁に呼ばれることもあろうけど50代とかはこのまま鹿町で終わることになるやろう」
「今度の合併は事実上の佐世保の鹿町吸収やねぇか。幸太郎がこの前、佐世保市役所に行ったついでにお前訪ねたばってん会えんやったって言いよったぞ」

「俺、今市長に付いて回りよるけん忙しゅうてね、中々役所にじっと居れんのよ」
「中野の婆さんが言よったぞ。吉井町と小佐々町の職員が将来ば悲観して自殺したってよ」
「何、そげん噂が飛び回りよるんね」
「本当やろもん」
「事実やけど合併が原因じゃないって」
「まぁええわ。俺には関係ねぇこつやけんの」

 三男は車に乗り込んだ。
 俺は運転席窓越しに、「ほんなら、嫁さんによろしう言うとってくれや。できたらまた盆に出て来るわ」



  
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プロフィール

kusukuri

Author:kusukuri
ブログ書き綴って7年が過ぎました。近頃悟った様な気がします。人生これ全部“ブログネタ”だと。文章は芸術です。それを極められるなら、私は時間と努力を惜しみません。そして何年掛かっても、今、私の頭の中にあるもの、全部吐き出して形にしたいと願ってます。もし私が死んだら小説の中で永遠に生きていたいと馬鹿な妄想しながら書いてます。

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